DeepSeek が 2026年9月10日に DeepSeek-V4.1-Flash を公開しました。総パラメータ552Bのうち実際に動くのは8B、KVキャッシュは前世代の約4分の1、文脈は100万トークンで、重みは MIT ライセンスで公開されています。
そして同じ日に、V4 Pro と旧 V4 Flash の廃止が公式に告知されました。2026年9月14日13時(日本時間)から、deepseek-v4-pro への呼び出しは V4.1 Flash に切り替わります。
ここでは「速いのか」「安いのか」を、公表値ではなく自分で叩いた実請求で確かめます。結論から言うと、速さは本物でしたが、同じお題の請求はほとんど下がりませんでした。
中身の話に入る前に、この発表の仕方そのものが変わっています。
普通、新モデルの発表は「上位版へ上がってください」という話です。ところが今回は逆で、9月14日13時から、上位版 V4 Pro に送ったリクエストが自動的に V4.1 Flash へ回されます。しかも課金は安い Flash の料金です。海外メディアはこう書いています。
お金を払っている上位ユーザーを、自分から安いモデルへ流す——これを公の場でやるのは異例です。自社の内部比較が正しくなければ成立しない賭けで、だから比較を公開した、と読まれています。
背景もあります。DeepSeek は上海のSTAR Marketへの上場を準備中で、CITIC證券を起用したと報じられています(Reuters)。上場前に技術的な前進を示す必要があるタイミングでした。
受け止められ方も大きく、Hugging Face では公開初日に734のいいねが付いています。第三者の実測では生成速度が毎秒300〜427トークンと報告され、あるテストではMinecraft風のゲームを約8分・実質数セントで作らせています。
V4.1 Flash は MoE(混合専門家)で、ルーティング専門家384個と共有専門家1個を持ち、1トークンあたり6個だけを動かします。実効パラメータは入力時8B、出力時16Bです。
アーキテクチャは Causal Encoder-Decoder(CED)。20層の causal encoder の後ろに20層の decoder を置き、デコーダのKVを各層ではなくエンコーダの最終隠れ状態から作ります。この構造のおかげで KVキャッシュが 890バイト/トークン(前世代の約4分の1)に収まります。
公式の Change Log と価格表の脚注に、次の2つがはっきり書かれています。
deepseek-v4-flash と deepseek-v4-flash-vision-exp はすでに提供終了。名前は受け付けるが、中身は V4.1 Flash が応答し、Flash の料金で課金されるdeepseek-v4-pro への全リクエストが V4.1 Flash にルーティングされ、V4.1 Flash の料金で課金される毎回まったく同じ12課題に載せて比べます。プロンプトは一字一句変えず、ワンショット厳守、同じ課題を3回生成して中央値を採ります。課題1は毎回必ず出す基準線です。
| # | 課題 | # | 課題 |
|---|---|---|---|
| 1 | マリオ風2Dアクション(基準線) | 21 | LINE風チャットアプリ |
| 5 | 半3Dブロック崩し | 29 | 縦書き原稿用紙エディタ |
| 9 | マインクラフト風ゲーム | 31 | 3D鬼ごっこ |
| 13 | 3Dレーシングゲーム | 34 | 分子組み立て3D実験台 |
| 16 | 初代ポケモン風GBゲーム | 37 | V8エンジン分解3D解説 |
| 17 | スマブラ風3D対戦アクション | 41 | 浮世絵の中を歩く3D |
全課題の先頭には、次の共通ヘッダが必ず付きます。この文面は変えません。
【出力条件・厳守】
1. 出力は「単一のHTMLファイル」を1つだけ。file:// でダブルクリックして即動くこと。ビルド・サーバ不要。
2. コードは省略禁止。「// 以下同様」「...(省略)」は禁止。全文を書ききる。
3. 外部アセット(画像/音声/フォント/モデル)への参照は禁止。必要な素材は Canvas / WebAudio / コードで生成する。
4. 物理・ゲームロジックは固定タイムステップ 1/60秒 で更新し、描画と分離する(可変dtをそのまま積分するのは禁止)。フレーム落ち時はアキュムレータで補正(最大5ステップでクランプ)。
5. 乱数はseed固定のPRNG(xorshift等)。同じ入力列なら必ず同じ結果になる(決定論)。
6. 画面右上に常時HUDを出す: FPS / フレーム時間ms / 現在state / 主要デバッグ値。
7. F1キーで当たり判定(コリジョン形状・法線・接地フラグ)のデバッグ描画をトグルできる。
8. 起動時のコンソールエラーは0件であること。
9. 自動採点用に window.__GAME = { state, player, entities, step(n), reset(seed) } をグローバル公開する。
10. 最後に「仕様チェックリスト」を表で出し、各項目に ✅ / ❌ を自己申告する(嘘の✅は最も減点される)。
【お題】
(ここに各課題を貼る)同じお題(落下する箱10個の物理HTML)を3世代に解かせて、usage の実数字で比べました。
| モデル | 所要 | 出力トークン | うち推論 | 実費 | トークン/秒 |
|---|---|---|---|---|---|
| V4.1 Flash | 20.7s | 2,833 | 1,723(61%) | $0.003428 | 136.9 |
| V4 Pro | 20.6s | 1,172 | 291(25%) | $0.003415 | 56.8 |
| V4 Flash(旧・第三者ホスト) | 23.6s | 3,081 | 201(6.5%) | $0.000872 | 130.5 |
速度は V4 Pro の 2.41倍。ここは宣伝どおりでした。ところが同じお題の実費は $0.003428 対 $0.003415 で、差は1.004倍。ほとんど同じです。
理由は出力の内訳にあります。V4.1 Flash は出力2,833トークンのうち1,723トークン(61%)が推論トークンで、V4 Pro の25%を大きく上回ります。単価が3分の1でも、吐くトークンが2.4倍なら請求は戻るということです。
# 事前に OpenRouter の APIキーを環境変数へ入れておきます
# export OPENROUTER_API_KEY="sk-or-..."
python3 - <<'PY'
import json,os,time,urllib.request
KEY=os.environ["OPENROUTER_API_KEY"]
PROMPT=("次の仕様でHTMLを1ファイルで書いて。説明文は不要、コードだけ。\n"
"・キャンバスに落下する箱が10個\n・重力と反発係数0.8で床に跳ねる\n"
"・クリックで全部リセット\n・外部ライブラリ禁止")
def call(model):
body=json.dumps({"model":model,"messages":[{"role":"user","content":PROMPT}],
"max_tokens":4000,"usage":{"include":True}}).encode()
req=urllib.request.Request("https://openrouter.ai/api/v1/chat/completions",body,
{"Authorization":f"Bearer {KEY}","Content-Type":"application/json"})
t=time.time(); r=json.load(urllib.request.urlopen(req,timeout=600)); el=time.time()-t
u=r.get("usage",{}); ct=u.get("completion_tokens",0)
return {"model":model.split("/")[-1],"provider":r.get("provider"),"sec":round(el,1),
"out":ct,"reasoning":(u.get("completion_tokens_details") or {}).get("reasoning_tokens"),
"cost":round(u.get("cost",0),6),"tok/s":round(ct/el,1)}
for m in ["deepseek/deepseek-v4.1-flash","deepseek/deepseek-v4-pro","deepseek/deepseek-v4-flash"]:
print(json.dumps(call(m),ensure_ascii=False))
PY次の仕様でHTMLを1ファイルで書いて。説明文は不要、コードだけ。 ・キャンバスに落下する箱が10個 ・重力と反発係数0.8で床に跳ねる ・クリックで全部リセット ・外部ライブラリ禁止
deepseek/deepseek-v4.1-flash を叩くと、実測では3回とも Novita(入力$0.30 / 出力$1.20)へ自動ルーティングされました。公式プロバイダを only:["deepseek"] で指定すると 404 で選べません。つまり上の実費は、DeepSeek 公式価格(出力$0.60)のおよそ2倍です。料金の話をするときは、次の章の公式単価表を見てください。公式の単価表です。V4.1 Flash と V4 Pro が並んでいます。
| 項目 | V4.1 Flash | V4 Pro | |
|---|---|---|---|
| 入力(キャッシュヒット) | オフ/ピーク | $0.003 / $0.006 | $0.022 / $0.044 |
| 入力(キャッシュミス) | オフ/ピーク | $0.15 / $0.30 | $0.66 / $1.32 |
| 出力 | オフ/ピーク | $0.60 / $1.20 | $1.98 / $3.96 |
| 同時実行数 | 2,500 | 500 | |
| Vision(画像入力) | 対応 | 非対応 |
出力単価は V4 Pro の 3.3分の1、同時実行数は 5倍、そして V4 Pro が非対応だった画像入力にも対応しています。値下げと機能追加が同時に来ているのは事実です。
問題は時間帯です。公式のピークは 平日 01:00-04:00 と 06:00-10:00(UTC)。日本時間に直すと 10:00-13:00 と 15:00-19:00、つまり日本の平日の業務時間、合計7時間がまるごとピークです。ピークの出力は $1.20 でオフピークの2倍。安い $0.60 は、日本の深夜と早朝しか使えません。
python3 - <<'PY'
from datetime import datetime, timezone, timedelta
JST = timezone(timedelta(hours=9))
now_u = datetime.now(timezone.utc); now_j = now_u.astimezone(JST)
peak = now_u.weekday() < 5 and (1 <= now_u.hour < 4 or 6 <= now_u.hour < 10)
print(f"いま UTC {now_u:%Y-%m-%d %H:%M %a} / JST {now_j:%H:%M %a}")
print(f"判定 {'ピーク = 出力 $1.20/M(2倍)' if peak else 'オフピーク = 出力 $0.60/M'}")
print()
print("DeepSeek のピーク時間帯(月〜金)を日本時間に直すと:")
for a, b in [(1, 4), (6, 10)]:
print(f" UTC {a:02d}:00-{b:02d}:00 → JST {(a+9)%24:02d}:00-{(b+9)%24:02d}:00")
print()
print("→ 日本の平日 10:00-13:00 と 15:00-19:00 の計7時間がピーク(2倍料金)")
print("→ オフピークは日本の夜〜早朝。バッチはそこへ寄せる")
PY下の数字はDeepSeek が Change Log に自分で載せた発表値です。他社との比較ではなく、まず公式が出したスコアそのものを見ます。
| 勝っている | スコア | 負けている | スコア |
|---|---|---|---|
| GPQA Diamond | 90.9 | ExploitGym | 15.3 |
| Terminal-Bench 2.1 | 90.6 | ProgramBench | 20.3 |
| CyberGym | 88.1 | Terminal-Bench 3.0 | 30.0 |
| DeepSWE v1.1 | 74.2 | Terminal-Bench 4.0 | 31.2 |
| Automation-Bench | 54.8 | Agents' Last Exam | 31.8 |
Terminal-Bench は 2.1 で 90.6 なのに、3.0 では 30.0、4.0 では 31.2 まで落ちます。新しい版になると崩れる、という性格がはっきり出ています。ExploitGym 15.3 と ProgramBench 20.3 も、公式が自分で出している数字です。
ベースモデルどうしの比較では、知識量(SimpleQA-Verified 42.3 対 V4-Pro-Base 55.2)と多言語(MultiLoKo 45.5 対 50.9)で前世代の Pro に負けています。そしてその V4 Pro が9月14日に無くなります。
使い分けはこうなります。向いているのは道具を連続で叩くエージェント的な作業、長い文脈を読ませる処理、コード生成、画像を混ぜた入力。まだ向かないのは道具なしの知識勝負、多言語での正確さ、そして新しい版の端末ベンチが要求する作業です。
ここがいちばん実務に効く部分です。複数の一次記事が同じことを言っていて、「短いフィードバックループを、高速で何周も回す」用途に振ったモデルだと読めます。
| 向いている | 任せてはいけない |
|---|---|
| リポジトリ検索とコードの説明 | 「コードベースを改善して」のような曖昧な指示 |
| 再現手順のある局所的なバグ修正 | 複数サービスにまたがる設計の大変更 |
| 型定義・スキーマなど繰り返しの生成 | 本番への不可逆な操作・セキュリティ案件 |
| テスト結果やエラー出力の解釈 | じっくり設計する・難しい問題を考える |
| 自動で検証できる小さなパッチ | 長い手順を最後まで走りきる作業 |
| 大量に回す・並列で回す処理 |
面白いのは、この「任せてはいけない」が、前の章のベンチマークの弱点と同じ方向を指していることです。ExploitGym 15.3、ProgramBench 20.3、Terminal-Bench 3.0 が 30.0——数字の弱点と、実際に使った人が感じる「向かなさ」が一致しています。
運用の型としてよく挙がるのが、「Flashから始めて、検証に2回失敗したら上位モデルへ上げる」という切り替えです。上げる合図は、修復を何度試しても通らない/ツール呼び出しがエラーになる/長い手順の途中で制約を守れなくなる/失敗したときの損害が大きい、の4つ。
どのエージェントでも「OpenAI Compatible」を選んで、次の3つを入れるだけです。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| Base URL | https://api.deepseek.com(/v1 は付けない) |
| Model | deepseek-flash |
| API Key | DeepSeek のキー |
Cursor なら Settings → Models → Add Model に入れて Verify。Cline / Roo Code / Kilo / OpenCode / Copilot CLI / OpenClaw も同じ流れです。
deepseek-chat と deepseek-reasoner はすでに廃止されています。また9月14日13時以降は、設定に deepseek-v4-pro と書いていても中身は V4.1 Flash になります。deepseek-v4-pro を直書きしているコードを洗い出す(切り替えは自動なので落ちはしませんが、モデルが変わります)usage を測り直す。単価表ではなく実請求で乗り換えを判断する