2026年8月20日、提供元の表示がないモデルが公開の場に現れました。誰が作ったのか分からないまま、それは週で最も使われるモデルになります。正体が明かされたのは8月26日。中国 Z.ai の GLM-5.3-Flash でした。
8月20日、OpenRouter と OpenCode に ox-alpha という名前のモデルが現れました。提供元の表示はなく、100万トークンの文脈を扱えて、しかも無料。素性が分からないまま性能だけが高いので、海外では正体当ての議論が一気に盛り上がります。
そして8月26日16時31分(協定世界時)、Hugging Face に重みが公開され、同時に正体が明かされました。日本時間でいえば、8月27日の午前1時半です。
開発元の説明は、公開前に実際の使われ方からフィードバックを集めるためというものです。ただ、公式ブログにはもう一段おもしろい記述があります。
この期間のアクセスは、すべて中国製のAIチップで処理されたと書かれています。開発元によれば、初期構成と比べて3倍の性能改善を達成し、主流のNVIDIA製GPUと同等のコスト効率に到達したとのことです。
つまりこの6日間は、新モデルの試験運転であると同時に、国産チップで本当に捌けるのかという実証実験でもあった、ということになります。ただしこれは開発元の発表であり、第三者による検証はされていません。
この回でいちばん大事なところです。GLM-5.3 と GLM-5.3-Flash は、名前が似ているだけで中身が違います。ここを取り違えると、価格の話も、重みが公開されたという話も、全部ずれます。
| GLM-5.3(8月14日) | GLM-5.3-Flash(8月26日) | |
|---|---|---|
| 土台 | GLM-5.2 と同じものを流用 | 新しく学習した別の土台 |
| 規模 | 7,440億級 / 実働400億 | 3,200億 / 実働180億 |
| 画像を見る力 | なし(文章のみ) | あり(画像・動画・ファイル) |
| 重みの公開 | まだ出ていない | MITで公開済み |
| 入力価格(100万トークン) | $1.40 | $0.15 |
| 出力価格(100万トークン) | $4.40 | $0.50 |
本体の GLM-5.3 は、事前学習をやり直さず、後訓練のスケーリングだけで伸ばしたモデルです。一方の Flash は、新しいベースから作り直しています。疎な注意機構と線形の注意機構を組み合わせた構造をGLMシリーズで初めて採用し、層の数は45層(GLM-4.5系は92層)。30兆トークン規模の、文章と画像を混ぜた学習データで訓練されています。
8月14日の公式ブログには、「2週間後に重みを公開する」と書かれています。Hugging Face へのリンクまで貼られています。
このリンクは 2026年8月27日の時点では開けませんでした。そして公約の期限だった8月28日をまたいだ、日本時間の8月29日0時22分に公開されました。容量は 755.6GB(141分割・fp8)です。
ひとつ注意があります。MITライセンスなのは Flash だけで、本体は独自の「GLM-5.3 License」です。利用・改変・再配布・商用のいずれも自由ですが、言語モデルを他社へ提供する事業をしていて12か月の合計売上が100億ドルを超える場合にだけ、Z.AI の審査が必要という条項が付いています。個人と多くの企業にとっては実質的に制限はありません。
curl -s -o /dev/null -w "HTTP %{http_code}\n" "https://huggingface.co/zai-org/GLM-5.3"
curl -sL "https://huggingface.co/api/models?author=zai-org&sort=lastModified&direction=-1&limit=5" \
| python3 -c "import json,sys; [print(m['modelId'],'|',m.get('lastModified')) for m in json.load(sys.stdin)]"
公式が公開しているベンチマーク表です。比較対象は GLM-5.2、DeepSeek-V4-Vision-Exp、Claude Opus 4.8、GPT-5.6 Terra、Gemini 3.7 Flash。
読み取れるのは、勝ち負けがきれいに割れているということです。
| ベンチマーク | GLM-5.3-Flash | Opus 4.8 | GPT-5.6 Terra | Gemini 3.7 Flash |
|---|---|---|---|---|
| GDPval-AA v2(実務作業) | 1773 | 1582 | 1571 | 1527 |
| Toolathlon Verified(道具を使う力) | 78.4 | 76.2 | 74.9 | — |
| AutomationBench(業務自動化) | 48.8 | 41.0 | 37.2 | 52.3 |
| OfficeQA Pro(書類の読み取り) | 62.4 | 48.9 | — | — |
| Terminal Bench 2.1(端末操作) | 84.3 | 85.0 | 87.4 | 85.8 |
| DeepSWE v1.1(コード修正) | 63.4 | 58.0 | 69.6 | 65.3 |
| MVbench(動画の理解) | 77.8 | 67.1 | 75.0 | 82.2 |
| BabyVision(細かい映像) | 53.4 | 46.8 | 61.6 | 70.9 |
実務作業の総合評価 GDPval-AA v2 は 1773 で、この表の全モデル中で1位です。Opus 4.8 の 1582 を大きく上回っています。しかも価格は約9分の1。一方で映像の理解は Gemini 3.7 Flash に明確に負けていますし、端末操作の総合力も GPT-5.6 Terra に届いていません。
出典:Artificial Analysis Intelligence Index v4.1.1(2026-08-27 取得)
artificialanalysis.ai
Flash に画像を見る力がある、とは何が変わることなのか。エージェンティック・ペリカンと呼ばれるお題をそのまま回します。ゼロショットの描画力ではなく、自分の出力を見て、正しく批評し、改善できるかを測る枠です。
このお題は、本体の GLM-5.3 では原理的に回せません(文章のみで画像を見られないため)。つまりこの実演そのものが、2つが別物であることの証明になります。
You have file system access and a browser tool (Chrome DevTools MCP). 1. Generate an SVG of a pelican riding a bicycle and save it as pelican.svg. 2. Render it and take a screenshot (JPG). 3. Look at the screenshot with your own vision. Critique it honestly: what is anatomically or mechanically wrong? 4. Fix the SVG. 5. Repeat steps 2-4 until you are satisfied, up to 5 iterations. Save each iteration as pelican_v1.svg, pelican_v2.svg, ... At the end, explain what changed and why.
見どころ:v1 から v5 までをコマ送りで並べた画。そして自己批評のコメントが的を射ているかどうか。構造の誤りを指摘して直すのか、装飾を足して複雑にして誤魔化すのか。ここでモデルの性格差がはっきり出ます。
ここで一つ、実際に踏んだ落とし穴を共有します。公式が案内しているセットアップは ~/.claude/settings.json を書き換えます。普段使っている環境の設定を丸ごと差し替えてしまうので、そのまま実行すると元の環境が壊れます。
設定ファイルに触らずに試す方法があります。そのターミナルにだけ環境変数を渡して起動するやり方です。ウィンドウを閉じれば元通りになります。
ANTHROPIC_BASE_URL="https://api.z.ai/api/anthropic" \ ANTHROPIC_AUTH_TOKEN="<Z.aiのAPIキー>" \ ANTHROPIC_DEFAULT_OPUS_MODEL="glm-5.3-flash[1m]" \ ANTHROPIC_DEFAULT_SONNET_MODEL="glm-5.3-flash[1m]" \ ANTHROPIC_DEFAULT_HAIKU_MODEL="glm-5.3-flash[1m]" \ API_TIMEOUT_MS="3000000" \ claude
差し替えたら、短時間で差が出るお題をワンショットで流します。動いている壁との衝突を正しく扱えるかがすべての課題で、すり抜け・発散・箱から飛び出す事故がそのままオチになります。
Write a Python program that shows 20 balls bouncing inside a spinning heptagon. All balls have the same radius and are numbered 1 to 20. All balls drop from the heptagon center at the start. Physics: gravity, friction, wall bounce, and ball-to-ball collision. The heptagon rotates 360 degrees per 5 seconds. Balls must never leave the heptagon; bounce height must be below the heptagon's radius but above the ball radius. Balls must visibly spin (the number shows the rotation). Only tkinter, math, numpy, dataclasses, typing, sys are allowed. No pygame, no physics engine. Single file.
本体の GLM-5.3 が $1.40 / $4.40 なので、入力で約9.3分の1、出力で約8.8分の1です。定額プランのクレジット消費倍率を見ると、Flash は本体のちょうど3分の1(入力2.3対6.9、出力8対24)。公式が言う「3倍使える」は、表の上でも検算が合います。
混雑時間帯は月曜から金曜の 14:00〜18:00(UTC+8)だけ。日本時間に直すと15:00〜19:00です。それ以外の時間と週末は、クレジット消費が半分になります。
つまり平日の夕方4時間を避けるだけで、実質2倍使えるということです。
出典:GLM Coding Plan 公式ドキュメント(2026-08-27 取得)
docs.z.ai
重みは MIT で公開されているので、落とせます。問題は容量です。
| 形式 | 容量 | 現実的な機材 |
|---|---|---|
| 公式(BF16) | 328.4 GB | データセンター機 |
| MLX 8bit | 334.1 GB | 非現実的 |
| MLX 4bit | 177.6 GB | メモリ256GB級のデスクトップなら射程内 |
| GGUF Q2_K | 約 115 GB | 256GB機なら余裕・128GB機は外れる |
ここで前回との比較が効きます。少し前に扱った大型モデルは、4bitまで潰しても850GBありました。高性能GPUを8枚(合計640GB)積んでも入りません。今回は177.6GB。必要な容量の桁が1つ下がりました。
| 効く | 効かない・向かない |
|---|---|
| Claude Code を毎日回していて、従量課金が痛い人($18から・3倍枠) | 最高精度が要る本番のコード(端末操作で上位に届いていない) |
| 画面を見て直させたい作業(画面設計・スライド・帳票) | 動画理解が主目的(Gemini 3.7 Flash に負けている) |
| 事務仕事の自動化(実務評価1位・書類読み取り1位) | 重い3D級の生成を一発で任せたい(実測で完走しなかった) |
| 重みを自社に置きたい組織(Flash は MIT・商用可) | 手元の普通のPCで動かしたい(4bitでも177.6GB) |