喋りながらやりとりできるAIが、この数週間で一気に増えました。ところが「どれがいいのか」を調べると、出てくるのは各社の発表文と、印象で書かれた感想ばかりです。
そこでこの回は、自分の声を一度録って、それを全部に同じだけ流します。測るのは4つだけ。最初の音が出るまでの秒数、固有名詞や金額が化けないか、割り込んで止められるか、言い直したときに話の切れ目をどう判断するか。
そしてもう一つ、たぶんこれが本題です。「AIとの会話が噛み合わない」の正体は、モデルの賢さではなくアーキテクチャです。経路だけを変えたレーンを用意して、遅さがどこで生まれているかを秒数で出します。
使うのは、前回の「録り終わった音声を測る台」のリアルタイム版として作った検証台です。同じ音声を全部のレーンに同じだけ流して、返ってきた数字だけを並べます。
「音声AI」と一括りにされていますが、中身は層が違うものが混ざっています。ここを分けないまま比較すると、値段も性能も噛み合いません。
| 層 | 製品 | 何をするものか | 料金(2026-08-05 公式) |
|---|---|---|---|
| ライブ文字起こし | gpt-live-transcribe | 喋っている最中に文字を出す | $0.017 / 分 |
| ライブ文字起こし | gpt-realtime-whisper | 同上(同じ値段の別モデル) | $0.017 / 分 |
| 音声のまま返す | gpt-realtime-2.1 | 音声で受けて音声で返す | $32 / $64(1Mトークン) |
| 音声のまま返す | Grok Voice Think Fast 2.0 | 同上。道具の呼び出しまでやる | $0.08 / 分 |
| 音声のまま返す | Gemini Live(native audio) | 同上 | $3 / $12(1Mトークン) |
| 連結型 | 文字起こし+対話AI+読み上げ | 3つを繋いで会話にする | 各社の合算 |
| 操作の入口 | QoderVoice | 声で開発エージェントを動かす | Qoder同梱・期間限定無料 |
比較で一番よくない結末は「なんとなくこっちが自然でした」で終わることです。なので、流す音声も測る軸も先に固定します。
ここで一つ、意図的にやっていることがあります。生でマイクに喋りかけるのをやめて、録った音声を毎回そのまま再生しています。人は毎回同じ言い方ができません。言い方が揺れると、モデルを変えた影響が秒数から読めなくなります。測っているのは返す側であって、こちらの声ではないからです。
| 軸 | 何を見るか | なぜそれが効くのか |
|---|---|---|
| ① 最初の音まで | 音を送り終えてから返事が鳴るまでの秒数 | 体感のほとんどはここで決まる。1秒を超えると人は「間」を感じる |
| ② 固有名詞・数字 | カタカナ語や金額が化けないか | 会話が止まる原因の大半。金額のケースがここを見る |
| ③ 割り込み | 喋っている最中に被せて止められるか | 実用では、止まらないAIが一番ストレスになる |
| ④ 話の切れ目の判断 | 言い直しの後半を拾えるか | 言い直しのケースがここを見る。弱いと会話が噛み合わない |
OpenAI の公式ガイド自身が、遅延は構成によって変わるので、代表的な音声で自分でベンチマークしてほしいと書いています。つまり「公式の数字を読むだけでは決められない」と公式が言っている領域です。
比較記事が信用できなくなるのは、たいてい数字の埋め方でつまずいたときです。なので測る前に決めて、コードの側に規約として書いておきました。
| ルール | なぜ |
|---|---|
| 測れなかったものは空欄にする。0で埋めない | 0を置くと「いちばん速かった回」として集計に混ざり、比較が静かに嘘になる |
| 単価は一次情報で確認できたものだけ書く | 分からない項目は空欄のまま。0円だと嘘をつかないため |
| 「検証済み」は実際に接続できた日付だけ | 書いていないものは未検証と表示される |
| 音のサンプリングレートは各社の指定値を宣言する | 勝手に合わせると音が壊れて、遅さの原因が分からなくなる |
この4つを先に決めておかないと、都合のいい数字だけが残ります。測れなかったレーンは、測れなかったまま表に出します。
greet | こんにちは。今日はいい天気ですね。
→ 余計な思考が要らない。そのモデルの素の速さが一番素直に出る
numbers | 四万九千八百円の内訳を教えてください。
→ 数字と金額。桁の言い間違いと、出力がかな寄りになる癖が見える
restate | あ、えっと、明日の、いや明後日の打ち合わせって何時からでしたっけ。
→ フィラーと言い直し。どこで話が終わったと判断するかが分かれる
3つとも狙いが違います。速さを見る用、崩れを見る用、話の切れ目の判断を見る用です。同じ音声ファイルを毎回再生するので、今日測った数字と、来月新しいモデルが出たときの数字を、そのまま並べられます。
台ができたので、あとは同じ音声を全部のレーンに流すだけです。ここで出るのが、この動画のいちばん短い答えになります。
見るのは3つだけです。一番速かったのはどれか。公式が言っている秒数と、自分の環境で出た数字はどれだけ違うか。そして、測れなかったレーンはどれか。
回線も部屋も機材も違うので、公式の数字とぴったり合うほうが不自然です。大事なのは合っているかどうかではなく、同じ条件で並べたときの順位と差のほうです。そして測れなかったレーンは、測れなかったまま表に残します。
ただ、順位が分かっても「なぜそうなるのか」は分かりません。ここからが本題です。
ここがこの回の芯です。「AIとの会話がぎこちない」と感じるとき、犯人はたいていモデルの頭の悪さではありません。
連結型は、声を文字にして、考えて、読み上げて、また声にします。処理が3つ直列に並ぶので、それぞれの待ち時間が積み上がります。音声のまま返す型は、その途中を持ちません。
検証台には連結型のレーンも用意しました。同じ音声・同じケースを流すので、差が耳の印象ではなく秒数で出ます。しかも積み上がりを3つに分解して記録します。
連結型 | 文字起こし 320ms + 考える 780ms + 読み上げ 410ms = 1,510ms 音声のまま | ───────────────────────────── 620ms
「なんとなく遅い」ではなく、どこで何ミリ秒使ったかまで出ます。ここが分かると、直しどころも見えます。
| 連結型 | 音声のまま返す型 | |
|---|---|---|
| 速さ | 処理が積み上がる | 積み上がらない |
| 割り込み | 喋り終わるまで進めない | 途中で止められる |
| 抑揚 | 文字にした時点で失われる | 残る |
| モデルの自由度 | 頭脳と声を別々に選べる | まとめて1社に預ける |
| 途中の文字 | 手に入る(記録・検索に回せる) | 別経路が要る |
「スムーズじゃない」の正体は、たいていモデルの性能ではなく、音声を一度テキストにしてしまっていることです。逆に言えば、自由度が要る用途では連結型のほうが正しい選択になります。速さと自由度のどちらを取るか、という話であって、優劣ではありません。
2026年8月5日、Grok Voice の「最新版」が指す先が 1.0 から 2.0 へ自動で移りました。何もしなければ勝手に上がります。1.0 のままにしたい場合だけ、バージョンを固定する必要がありました。
| 指標 | 1.0 | 2.0 | 参考 |
|---|---|---|---|
| 総合品質(Artificial Analysis) | 75.7% | 82.9% | GPT-Realtime-2.1 = 79.1% / Gemini 3.1 Flash = 69.5% |
| 最初の音が出るまで | 1.25秒 | 0.70秒 | — |
| 会話のやりとり(Full Duplex Bench) | 77.8% | 95.1% | =割り込み耐性の裏づけ |
| エージェント性能(τ-voice Bench) | — | 56.5% | GPT-Realtime-2.1 = 45.7% |
0.70秒と書いてあります。これが日本語で、自分の部屋で、同じように起きるかを測ります。近ければ素直に認めますし、違えば違うと言います。
| 音声入力(1Mトークン) | 音声出力(1Mトークン) | 分あたり | |
|---|---|---|---|
| Gemini Live(native audio) | $3.00 | $12.00 | — |
| GPT-Realtime-2.1 | $32.00(キャッシュ時 $0.40) | $64.00 | — |
| Grok Voice Think Fast 2.0 | — | — | $0.08 |
| Grok Voice 1.0(旧) | — | — | $0.05 |
| Grok STT(参考) | — | — | $0.00167(ストリーミングは2倍) |
入力の単価だけを見ると 3ドル対32ドルで10倍です。ただし実際に払う額は出力の比重が大きいので、1分あたりに直すとおよそ5〜6倍に落ち着きます。動画でも「10倍」という言い方はしません。都合のいい方の数字を採らないためです。
なお1分あたりの換算(入力600トークン・出力1200トークン)は公式の換算表ではなく概算です。実際の請求は喋る量で動きます。
もう一つ、請求書を読むうえで効く話があります。OpenAI はキャッシュが効くと音声入力が 32ドルから 0.40ドルまで落ちます。自作アプリの実測でも、1往復目が 0.17ドル、2往復目以降が 0.03ドル前後でした。つまりこまめに再起動するほど高くつきます。直感と逆なので、はっきり言っておきます。
ライブ文字起こしには gpt-live-transcribe と gpt-realtime-whisper の2つがあります。窓口も同じ、値段もまったく同じ 1分0.017ドルです。それなのに2本ある。違いを書いた資料が、日本語では見当たりませんでした。
切り替えは設定の1行です。自作の音声エージェントの設定ファイルで、モデル名を書き換えるだけで同じ環境のまま比べられます。
"realtimeSttModel": "gpt-live-transcribe" // ← ここを "realtimeSttModel": "gpt-realtime-whisper" // ← こう変えるだけ
どちらも単語ごとの時刻・話者のラベル・確からしさの点数は返ってきません(公式ガイドに明記)。字幕や議事録を作りたいなら、そもそも選ぶ層が違うということです。
もう一つ、遅延を5段階(minimal / low / medium / high / xhigh)で選べます。粘らせるほど正確に、急がせるほど速くなります。自作アプリでは high に固定してあります。文字起こしは表示用の別経路なので、粘らせても会話そのものの速さには響かないからです。
Alibaba の QoderVoice は、声で開発エージェントを動かすものです。中身は Qwen-Audio-3.0-Realtime で、聞きながら喋れるフルデュプレックスです。体験としては面白い。
APIの接続先は中国(北京)リージョンのみで、日本語対応の記載もありません。日本から自分のアプリに組み込む選択肢には、現時点でなりません。使えないと分かることも情報です。ここを確かめるのに時間を使ったので、同じ道を通る必要はありません。
| やりたいこと | 使うもの | 料金の目安 |
|---|---|---|
| 録音した音声を文章に | GPT-Transcribe | $0.0045 / 分 |
| 字幕・議事録(時刻と話者が要る) | Grok STT | $0.00167 / 分 |
| 喋っている最中に字幕を出す | GPT-Live-Transcribe | $0.017 / 分 |
| とにかく自然に会話したい | Grok Voice Think Fast 2.0 | $0.08 / 分 |
| 安く長く喋らせたい | Gemini Live(native audio) | $3 / $12(1Mトークン) |
| 頭脳と声を自分で選びたい | 連結型 | 各社の合算 |
| 声で開発エージェントを動かす(体験) | QoderVoice | Qoder同梱 |
速さが要るなら音声のまま返す型、自由度が要るなら連結型。この判断ができれば、もう選べます。