Routine Labo / リアルタイム音声AI

リアルタイム音声AIを同じマイクで比べる — どれが自然に喋るのか、なぜ噛み合わないのか

2026年8月5日実機比較Routine Labo
同じマイクで比べた リアルタイム音声AI サムネイル案
サムネ案

喋りながらやりとりできるAIが、この数週間で一気に増えました。ところが「どれがいいのか」を調べると、出てくるのは各社の発表文と、印象で書かれた感想ばかりです。

そこでこの回は、自分の声を一度録って、それを全部に同じだけ流します。測るのは4つだけ。最初の音が出るまでの秒数、固有名詞や金額が化けないか、割り込んで止められるか、言い直したときに話の切れ目をどう判断するか。

そしてもう一つ、たぶんこれが本題です。「AIとの会話が噛み合わない」の正体は、モデルの賢さではなくアーキテクチャです。経路だけを変えたレーンを用意して、遅さがどこで生まれているかを秒数で出します。

使うのは、前回の「録り終わった音声を測る台」のリアルタイム版として作った検証台です。同じ音声を全部のレーンに同じだけ流して、返ってきた数字だけを並べます。

1まず、何と何を比べているのか

「音声AI」と一括りにされていますが、中身は層が違うものが混ざっています。ここを分けないまま比較すると、値段も性能も噛み合いません。

音声AIは層に分かれる
図解:Routine Labo
製品何をするものか料金(2026-08-05 公式)
ライブ文字起こしgpt-live-transcribe喋っている最中に文字を出す$0.017 / 分
ライブ文字起こしgpt-realtime-whisper同上(同じ値段の別モデル)$0.017 / 分
音声のまま返すgpt-realtime-2.1音声で受けて音声で返す$32 / $64(1Mトークン)
音声のまま返すGrok Voice Think Fast 2.0同上。道具の呼び出しまでやる$0.08 / 分
音声のまま返すGemini Live(native audio)同上$3 / $12(1Mトークン)
連結型文字起こし+対話AI+読み上げ3つを繋いで会話にする各社の合算
操作の入口QoderVoice声で開発エージェントを動かすQoder同梱・期間限定無料

2測り方を先に決める

比較で一番よくない結末は「なんとなくこっちが自然でした」で終わることです。なので、流す音声も測る軸も先に固定します。

ここで一つ、意図的にやっていることがあります。生でマイクに喋りかけるのをやめて、録った音声を毎回そのまま再生しています。人は毎回同じ言い方ができません。言い方が揺れると、モデルを変えた影響が秒数から読めなくなります。測っているのは返す側であって、こちらの声ではないからです。

同じマイクに全部流す・測る4軸
図解:Routine Labo
何を見るかなぜそれが効くのか
① 最初の音まで音を送り終えてから返事が鳴るまでの秒数体感のほとんどはここで決まる。1秒を超えると人は「間」を感じる
② 固有名詞・数字カタカナ語や金額が化けないか会話が止まる原因の大半。金額のケースがここを見る
③ 割り込み喋っている最中に被せて止められるか実用では、止まらないAIが一番ストレスになる
④ 話の切れ目の判断言い直しの後半を拾えるか言い直しのケースがここを見る。弱いと会話が噛み合わない
この企画の裏づけ

OpenAI の公式ガイド自身が、遅延は構成によって変わるので、代表的な音声で自分でベンチマークしてほしいと書いています。つまり「公式の数字を読むだけでは決められない」と公式が言っている領域です。

測り始める前に決めた4つのルール

比較記事が信用できなくなるのは、たいてい数字の埋め方でつまずいたときです。なので測る前に決めて、コードの側に規約として書いておきました。

ルールなぜ
測れなかったものは空欄にする。0で埋めない0を置くと「いちばん速かった回」として集計に混ざり、比較が静かに嘘になる
単価は一次情報で確認できたものだけ書く分からない項目は空欄のまま。0円だと嘘をつかないため
「検証済み」は実際に接続できた日付だけ書いていないものは未検証と表示される
音のサンプリングレートは各社の指定値を宣言する勝手に合わせると音が壊れて、遅さの原因が分からなくなる

この4つを先に決めておかないと、都合のいい数字だけが残ります。測れなかったレーンは、測れなかったまま表に出します。

全レーンに流す3つの音声(毎回まったく同じものを再生する)
greet    | こんにちは。今日はいい天気ですね。
          → 余計な思考が要らない。そのモデルの素の速さが一番素直に出る

numbers  | 四万九千八百円の内訳を教えてください。
          → 数字と金額。桁の言い間違いと、出力がかな寄りになる癖が見える

restate  | あ、えっと、明日の、いや明後日の打ち合わせって何時からでしたっけ。
          → フィラーと言い直し。どこで話が終わったと判断するかが分かれる

3つとも狙いが違います。速さを見る用、崩れを見る用、話の切れ目の判断を見る用です。同じ音声ファイルを毎回再生するので、今日測った数字と、来月新しいモデルが出たときの数字を、そのまま並べられます

3まず、全部に流してみる

台ができたので、あとは同じ音声を全部のレーンに流すだけです。ここで出るのが、この動画のいちばん短い答えになります。

見るのは3つだけです。一番速かったのはどれか。公式が言っている秒数と、自分の環境で出た数字はどれだけ違うか。そして、測れなかったレーンはどれか。

数字が公式と違ったとき

回線も部屋も機材も違うので、公式の数字とぴったり合うほうが不自然です。大事なのは合っているかどうかではなく、同じ条件で並べたときの順位と差のほうです。そして測れなかったレーンは、測れなかったまま表に残します。

ただ、順位が分かっても「なぜそうなるのか」は分かりません。ここからが本題です。

4なぜ会話が噛み合わないのか

ここがこの回の芯です。「AIとの会話がぎこちない」と感じるとき、犯人はたいていモデルの頭の悪さではありません。

連結型と、音声のまま返す型の違い
図解:Routine Labo

連結型は、声を文字にして、考えて、読み上げて、また声にします。処理が3つ直列に並ぶので、それぞれの待ち時間が積み上がります。音声のまま返す型は、その途中を持ちません。

検証台には連結型のレーンも用意しました。同じ音声・同じケースを流すので、差が耳の印象ではなく秒数で出ます。しかも積み上がりを3つに分解して記録します

連結型の内訳(※数字は収録時の実測に差し替え)
連結型  | 文字起こし 320ms + 考える 780ms + 読み上げ 410ms = 1,510ms
音声のまま | ─────────────────────────────  620ms

「なんとなく遅い」ではなく、どこで何ミリ秒使ったかまで出ます。ここが分かると、直しどころも見えます。

連結型音声のまま返す型
速さ処理が積み上がる積み上がらない
割り込み喋り終わるまで進めない途中で止められる
抑揚文字にした時点で失われる残る
モデルの自由度頭脳と声を別々に選べるまとめて1社に預ける
途中の文字手に入る(記録・検索に回せる)別経路が要る
この回の結論の一つ

「スムーズじゃない」の正体は、たいていモデルの性能ではなく、音声を一度テキストにしてしまっていることです。逆に言えば、自由度が要る用途では連結型のほうが正しい選択になります。速さと自由度のどちらを取るか、という話であって、優劣ではありません。

5今日、静かに切り替わった

2026年8月5日、Grok Voice の「最新版」が指す先が 1.0 から 2.0 へ自動で移りました。何もしなければ勝手に上がります。1.0 のままにしたい場合だけ、バージョンを固定する必要がありました。

Grok Voice Think Fast 2.0 の数字
図解:Routine Labo
指標1.02.0参考
総合品質(Artificial Analysis)75.7%82.9%GPT-Realtime-2.1 = 79.1% / Gemini 3.1 Flash = 69.5%
最初の音が出るまで1.25秒0.70秒
会話のやりとり(Full Duplex Bench)77.8%95.1%=割り込み耐性の裏づけ
エージェント性能(τ-voice Bench)56.5%GPT-Realtime-2.1 = 45.7%
Grok Voice Think Fast 2.0 の発表ページ
出典:SpaceXAI「Introducing Grok Voice Think Fast 2.0」(2026-07-29)計測は Artificial Analysis
https://x.ai/news/grok-voice-think-fast-2

0.70秒と書いてあります。これが日本語で、自分の部屋で、同じように起きるかを測ります。近ければ素直に認めますし、違えば違うと言います。

6同じ会話に払う額は5倍ちがう

料金の比較
図解:Routine Labo
音声入力(1Mトークン)音声出力(1Mトークン)分あたり
Gemini Live(native audio)$3.00$12.00
GPT-Realtime-2.1$32.00(キャッシュ時 $0.40)$64.00
Grok Voice Think Fast 2.0$0.08
Grok Voice 1.0(旧)$0.05
Grok STT(参考)$0.00167(ストリーミングは2倍)
数字の扱いについて(ここは正直に)

入力の単価だけを見ると 3ドル対32ドルで10倍です。ただし実際に払う額は出力の比重が大きいので、1分あたりに直すとおよそ5〜6倍に落ち着きます。動画でも「10倍」という言い方はしません。都合のいい方の数字を採らないためです。

なお1分あたりの換算(入力600トークン・出力1200トークン)は公式の換算表ではなく概算です。実際の請求は喋る量で動きます。

もう一つ、請求書を読むうえで効く話があります。OpenAI はキャッシュが効くと音声入力が 32ドルから 0.40ドルまで落ちます。自作アプリの実測でも、1往復目が 0.17ドル、2往復目以降が 0.03ドル前後でした。つまりこまめに再起動するほど高くつきます。直感と逆なので、はっきり言っておきます。

7寄り道:同じ 0.017ドルが、2つある

ライブ文字起こしには gpt-live-transcribegpt-realtime-whisper の2つがあります。窓口も同じ、値段もまったく同じ 1分0.017ドルです。それなのに2本ある。違いを書いた資料が、日本語では見当たりませんでした。

同じ値段のライブ文字起こしが2本
図解:Routine Labo

切り替えは設定の1行です。自作の音声エージェントの設定ファイルで、モデル名を書き換えるだけで同じ環境のまま比べられます。

設定のこの1行だけ変える
"realtimeSttModel": "gpt-live-transcribe"     // ← ここを
"realtimeSttModel": "gpt-realtime-whisper"    // ← こう変えるだけ
選ぶ前に知っておくこと

どちらも単語ごとの時刻・話者のラベル・確からしさの点数は返ってきません(公式ガイドに明記)。字幕や議事録を作りたいなら、そもそも選ぶ層が違うということです。

OpenAI Realtime transcription の公式ガイド
出典:OpenAI「Realtime transcription」
https://developers.openai.com/api/docs/guides/realtime-transcription

もう一つ、遅延を5段階(minimal / low / medium / high / xhigh)で選べます。粘らせるほど正確に、急がせるほど速くなります。自作アプリでは high に固定してあります。文字起こしは表示用の別経路なので、粘らせても会話そのものの速さには響かないからです。

8声で開発エージェントを動かす(QoderVoice)

Alibaba の QoderVoice は、声で開発エージェントを動かすものです。中身は Qwen-Audio-3.0-Realtime で、聞きながら喋れるフルデュプレックスです。体験としては面白い。

Qwen-Audio Realtime の公式ドキュメント
出典:Alibaba Cloud Model Studio「Qwen-Audio real-time voice model」
https://www.alibabacloud.com/help/en/model-studio/qwen-audio-realtime-user-guides
正直な判定

APIの接続先は中国(北京)リージョンのみで、日本語対応の記載もありません。日本から自分のアプリに組み込む選択肢には、現時点でなりません。使えないと分かることも情報です。ここを確かめるのに時間を使ったので、同じ道を通る必要はありません。

9まとめ:最強を選ぶのではなく、要る層を選ぶ

やりたいこと使うもの料金の目安
録音した音声を文章にGPT-Transcribe$0.0045 / 分
字幕・議事録(時刻と話者が要る)Grok STT$0.00167 / 分
喋っている最中に字幕を出すGPT-Live-Transcribe$0.017 / 分
とにかく自然に会話したいGrok Voice Think Fast 2.0$0.08 / 分
安く長く喋らせたいGemini Live(native audio)$3 / $12(1Mトークン)
頭脳と声を自分で選びたい連結型各社の合算
声で開発エージェントを動かす(体験)QoderVoiceQoder同梱

速さが要るなら音声のまま返す型、自由度が要るなら連結型。この判断ができれば、もう選べます。

10出典