検証レポート / 2026-08-01

DeepSeek V4 Flash を実機検証する
— Opus 4.8 の97%を1/89の料金で出す条件と限界

Routine Labo / 2026年8月1日時点の一次情報にもとづく検証レポート
DeepSeek V4 Flash 実機検証。Opus 4.8の97%を1/89の料金で。$25 と $0.28 の対比と 1/89 のバッジ

2026年7月31日、DeepSeek が DeepSeek-V4-Flash-0731 を公開ベータで正式リリースした。 話題になっているのは性能そのものより価格に対する性能で、Terminal Bench 2.1 のスコアは Claude Opus 4.8 の 97.3% に達しながら、出力トークン単価は 89分の1 しかない。 この回では、公式の発表資料を読み上げるのではなく、公開当日に重みファイルを自分で開け、 いつもの検証コースで4モデルに同じ課題を解かせて、どの仕事なら置き換えていいのかの線を引く。

97.3%
Terminal Bench 2.1
Opus 4.8 に対する到達率
1/89
出力1Mトークンあたりの
価格比($0.28 vs $25)
166.9GB
公開された重みのサイズ
MITライセンス

01何が出たのか

DeepSeek の公式チェンジログには、deepseek-v4-flashDeepSeek-V4-Flash-0731 に更新された、とだけ書かれている。 API のモデル名も呼び出し方も変わらないので、すでに Preview 版を使っていた人は何もしなくても新しい方に切り替わる。

DeepSeek 公式APIドキュメントのチェンジログ画面
公式チェンジログ。出典:api-docs.deepseek.com/updates

02一番おいしい話 — 器は変えず、中身だけ入れ替えた

今回の伸びで technically おもしろいのは、アーキテクチャもモデルサイズも一切変わっていない点だ。 公式が「Preview 版と同じアーキテクチャ・同じサイズ」と明言していて、性能の向上は 事後学習をやり直したことだけから生まれている。

同じ形の箱が2つ並び、外側は同一で中身の密度だけが変わっている図解
図解:Routine Labo

その結果がこれ。特に DeepSWE の伸び方が異常で、7.3 が 54.4 になっている(7.4倍)

ベンチマークPreview版0731版伸び
DeepSWE7.354.47.4倍
Cybergym38.776.72.0倍
AutomationBench10.825.12.3倍
Terminal Bench 2.161.882.71.34倍

さらに変な話がある。下位モデルであるはずの Flash が、上位の V4-Pro-Preview を全項目で上回った。 「モデルの世代交代=器を作り直すこと」という前提が、そろそろ崩れてきている。

03なぜ今このタイミングなのか

ただ、価格だけの話ではない。今回 DeepSeek は OpenAI 互換の Responses API に対応し、さらに Anthropic 形式のエンドポイントまで用意してきた。 つまり「安いですよ」ではなく「今お使いの環境にそのまま挿さります」という売り方に変えている。ここが本質だと思う。

04ベンチマークを正しく読む

公式が出している比較表がこれ。数字は全部ここから取っている。

DeepSeek公式のベンチマーク比較表。V4-Flash-0731、Preview、Pro、GLM-5.2、Opus 4.8 の9ベンチのスコア
公式モデルカードのベンチマーク比較表。出典:huggingface.co/deepseek-ai/DeepSeek-V4-Flash-0731

勝っているところ

ベンチマークV4 FlashOpus 4.8到達率
Terminal Bench 2.182.785.097.3%
Agents' Last Exam25.225.798.1%
DeepSWE54.458.093.8%
Toolathlon-Verified70.376.292.3%

負けているところ(ここを隠すと嘘になる)

ベンチマークV4 FlashOpus 4.8到達率
NL2Repo54.269.777.8%
DSBench-Hard59.671.783.1%
Cybergym76.783.192.3%

言い方の線引き

「Opus 超え」とは言えない。自然言語の仕様からリポジトリを丸ごと起こす NL2Repo は 77.8% どまりで、 難度の高いデータ分析(DSBench-Hard)も 83.1%。
ただし97%を1/89で出せるなら、比べる基準そのものが変わる——というのがこの回の主張。

05費用 — ここが主軸

出力1Mトークンあたりの価格。Opus 4.8 の $25 と DeepSeek V4 Flash の $0.28 を高さで対比し、89倍と表示
図解:Routine Labo
DeepSeek公式の料金表。モデル別のベースURL、コンテキスト長、機能、価格
公式料金表。出典:api-docs.deepseek.com/quick_start/pricing
モデル入力 $/1M出力 $/1M出力の倍率
DeepSeek V4 Flash0.140.28
GLM-5.21.404.4015.7倍
Claude Haiku 4.51.005.0017.9倍
Claude Sonnet 4.63.0015.0053.6倍
Kimi K33.0015.0053.6倍
Claude Opus 4.85.0025.0089.3倍
GPT-5.6 Sol5.0030.00107倍

入力側はもう一段効く。通常の入力が $0.14 なのに対して、 キャッシュが効いた入力は $0.0028。同じ文脈を何度も読ませる使い方だと、桁がもう一つ落ちる。

⚠ 日本にだけ刺さる落とし穴(まだ誰も言っていない)

公式料金表の注記に、ピーク時間帯は通常の2倍料金を導入予定、と書かれている。 対象は北京時間の 9〜12時 と 14〜18時。これを日本時間に直すと 10〜13時 と 15〜19時——日本の勤務時間帯とほぼ丸かぶりする。

つまり「1/89」は、深夜と早朝の数字になる可能性がある。バッチ処理を夜に寄せられる用途かどうかで、実質的な価値が変わる。

24時間の帯にピーク2倍料金の時間帯と一般的な勤務時間を重ねた図解
図解:Routine Labo(北京時間の公式表記を日本時間に換算)

06具体的にどこで使うのか

ベンチの列を、実務の仕事に翻訳するとこうなる。全部を安いモデルに移すと失敗するので、先に線を引いておく。

置き換えていい仕事とまだ任せない仕事を5枚のカードで示した優先度リスト
図解:Routine Labo
判定仕事の種類根拠にした列
置換OKターミナル操作・CI・スクリプト実行の自動化Terminal Bench 82.7(97.3%)
置換OKツール連携・エージェントのオーケストレーションToolathlon 70.3(92.3%)
置換OK大量の下読み・要約・分類入力キャッシュ $0.0028
併用既存リポジトリへの機能追加・バグ修正DeepSWE 54.4(絶対値が低い)
まだ早い仕様書からリポジトリを丸ごと起こすNL2Repo 54.2(77.8%)
まだ早い難度の高いデータ分析の完遂DSBench-Hard 59.6(83.1%)

判断の分かれ目はシンプルで、「その仕事、やり直しが発生したときのコストは高いか」だけ見ればいい。 高いなら高性能モデル。低いなら V4 Flash に投げた方が圧倒的に得になる。

07使い始め方 — Claude Code にそのまま挿さる

OpenRouter、公式API、Codex差し替えの3つの入口を示したカード図解
図解:Routine Labo

公式の料金表を開いて一番驚いたのがここだった。ベースURLが2種類用意されている。

形式ベースURL使いどころ
OpenAI 形式https://api.deepseek.comCodex・OpenAI互換クライアント全般
Anthropic 形式https://api.deepseek.com/anthropicClaude Code にそのまま挿せる

つまり環境変数を1つ差し替えるだけで、いつもの Claude Code の中身を DeepSeek に替えられる。 「安いモデルがある」ではなく「今の環境のまま安くなる」というのが今回の実務的なインパクト。

なお Responses API に対応しているのは Flash だけで、Pro は非対応。 同時実行の上限も Flash 2500 / Pro 500 と5倍差があり、量を捌く用途に振ってあることが分かる。

08重みは本当に落とせるのか

この回の独自検証:英語メディアの記述が間違っている

英語圏の解説記事には「0731 は API のみ。ダウンロードできる重みは4月のPreview版のまま」と書かれていた。 それが本当か、HuggingFace の API を直接叩いて確かめた。

結果は違ったdeepseek-ai/DeepSeek-V4-Flash-0731 には 48シャード・合計166.9GB の重み本体が実在し、ライセンスは MIT。 最終更新は 2026年8月1日 03:07 UTC——記事が書かれた後に上がっていた。

確認に使えるコマンド
curl -s "https://huggingface.co/api/models/deepseek-ai/DeepSeek-V4-Flash-0731?blobs=true" \
  | python3 -c "
import json,sys
d=json.load(sys.stdin)
st=[x for x in d['siblings'] if x['rfilename'].endswith('.safetensors')]
print('ライセンス :', d['cardData']['license'])
print('最終更新   :', d['lastModified'])
print('シャード数 :', len(st))
print('合計サイズ : %.1f GB' % (sum(x.get('size',0) or 0 for x in st)/1e9))
"
HuggingFace のファイル一覧画面。DeepSeek-V4-Flash-0731 の safetensors ファイル群
HuggingFace のファイル一覧。出典:huggingface.co/deepseek-ai/DeepSeek-V4-Flash-0731/tree/main

なぜ284Bのモデルが167GBに収まるのか

config.json を開くと理由がすぐ分かる。

config.json(抜粋)
"expert_dtype": "fp4",          ← エキスパートは最初から4bit
"quantization_config": { "quant_method": "fp8", "fmt": "e4m3" },
"n_routed_experts": 256,        "n_shared_experts": 1,
"num_experts_per_tok": 6,       "num_hidden_layers": 43,
"max_position_embeddings": 1048576,
"num_nextn_predict_layers": 1   ← MTP(284B→304Bの差分)

エキスパートの重みが最初から FP4 で配られている。 つまり後から自分で量子化する必要がない。ここが前回と決定的に違う。

1.56TB と 166.9GB の横棒対比。約1/9と表示
図解:Routine Labo

前回の答え合わせ

前回は Kimi K3 のオープンウェイトを扱って、1.56TB を落として「現実的には使えない」という結論だった。 今回は 166.9GB=約9分の1で、しかも量子化を自分でやる必要がない。

ただし正直に言うと、これでも普通の Mac では動かない。 実用には256GB級のユニファイドメモリか、複数GPUが要る。「誰でも動く」ではない。

09実機検証 — いつもの検証コース

比較対象は DeepSeek V4 Flash / Claude Opus 4.8 / GPT-5.6 / Grok 4.5 の4モデル。 運用ルール通り、プロンプトは一字一句変えず、ワンショット厳守、同一UIで統一する。 以下は検証で実際に投げるプロンプトの全文。

共通ヘッダ(全課題の先頭に必ず貼る)

共通ヘッダ
【出力条件・厳守】
1. 出力は「単一のHTMLファイル」を1つだけ。file:// でダブルクリックして即動くこと。ビルド・サーバ不要。
2. コードは省略禁止。「// 以下同様」「...(省略)」は禁止。全文を書ききる。
3. 外部アセット(画像/音声/フォント/モデル)への参照は禁止。必要な素材は Canvas / WebAudio / コードで生成する。
4. 物理・ゲームロジックは固定タイムステップ 1/60秒 で更新し、描画と分離する(可変dtをそのまま積分するのは禁止)。フレーム落ち時はアキュムレータで補正(最大5ステップでクランプ)。
5. 乱数はseed固定のPRNG(xorshift等)。同じ入力列なら必ず同じ結果になる(決定論)。
6. 画面右上に常時HUDを出す: FPS / フレーム時間ms / 現在state / 主要デバッグ値。
7. F1キーで当たり判定(コリジョン形状・法線・接地フラグ)のデバッグ描画をトグルできる。
8. 起動時のコンソールエラーは0件であること。
9. 自動採点用に window.__GAME = { state, player, entities, step(n), reset(seed) } をグローバル公開する。
10. 最後に「仕様チェックリスト」を表で出し、各項目に ✅ / ❌ を自己申告する(嘘の✅は最も減点される)。

【お題】
(ここに各課題を貼る)

課題1:2Dプラットフォーマー(基準線・毎回必須)

毎回必ず出題している実力の目盛り。過去に検証した世代と横並びで比較するために外さない。

課題1
【お題】Canvas 2D のみ(WebGL・外部ライブラリ・CDN 全て禁止)で、横スクロール2Dアクションを作れ。1280x720。

必須仕様:
- プレイヤー移動: 加速度と減速度は別係数。最高速度あり。空中制御は地上の60%。
- 可変ジャンプ: ボタンを離した瞬間に上昇速度を半減。
- コヨーテタイム 80ms / ジャンプ先行入力バッファ 100ms。
- 落下速度は最大でも1フレームあたりタイル1枚を超えないよう、スイープ(連続)衝突判定で床を貫通させない。
- 衝突解決は X軸→Y軸 の分離解決。壁への貼りつき・床でのガタつきを起こさないこと。
- 一方通行床(下から通り抜け、上から乗れる。↓+ジャンプで降りられる)。
- 動く床: 乗っている間はプラットフォームの速度を継承し、離れた瞬間もその速度が残る。
- 敵2種(パトロール型 / 追尾型)。踏みつけで撃破、横接触でダメージ+ノックバック+0.8秒無敵(点滅)。
- カメラ: デッドゾーン + 進行方向の先読み(look-ahead) + スムージング。ステージ端でクランプ。
- タイルマップ3ステージ、コイン、ゴール、残機、リトライ、クリアタイム表示。
- 効果音はWebAudioで合成(ジャンプ/被弾/コイン/クリア)。

課題2:2D仕様書 → 3Dプラットフォーマー(主砲・今回のメイン)

検証の主砲に据えている課題。完答率が低く、何ヶ月続けても天井が来ない。同じ課題を3回生成して中央値を採る。

課題2
【お題】以下は『2D横スクロールアクションの仕様書』である。これを 3D(三人称視点)アクションとして再解釈し、Three.js で実装せよ。Three.js は CDN(importmap)使用可。ただし物理エンジン(cannon-es / rapier / ammo / oimo 等)は使用禁止。物理・衝突は自前で書くこと。

--- 2D仕様書 ---
・加速/減速の別係数・最高速度・空中制御60%
・可変ジャンプ(離すと上昇半減)/コヨーテタイム80ms/ジャンプバッファ100ms
・一方通行床/動く床(速度継承)
・敵はパトロールと追尾/踏みつけ撃破/横接触でダメージ+ノックバック+無敵0.8秒
・カメラはデッドゾーン+先読み+スムージング
・コイン・ゴール・残機・リトライ・クリアタイム
--- ここまで ---

3D化にあたっての追加必須要件(2Dには存在しない要件。ここを落とすと不合格):
A. 移動は「カメラ相対」。W はカメラの向いている方向へ進む。マウスドラッグ(または右スティック)で軌道カメラを回すと、W の意味も回転する。ワールド軸固定の移動は不可。
B. カメラは壁にめり込まない。プレイヤー→カメラへレイを飛ばし、壁に当たったらカメラを手前に寄せる(スプリングアーム)。
C. 斜面: 傾斜30度は普通に登れる。46度以上は登れず、法線に沿って滑り落ちる。斜面上でジャンプすると法線方向ではなく真上+慣性で飛ぶ。
D. 回転する円盤状の足場に乗ると、角速度による接線速度と回転(向き)を正しく継承する。円盤の外周に立つほど速く振り回される。
E. 落下(y < -20)で最後の接地点にリスポーン。
F. 衝突形状はプレイヤー=カプセル、地形=AABB/OBB。F1でカプセルと接触法線を可視化。
G. 影(shadowMap)、フォグ、簡易的な空気遠近。マテリアルはコードのみで作る。

最後に「2Dのどの仕様を3Dのどの挙動に翻訳したか」の対応表を出せ。

信頼性テスト①:ハルシネーション罠

「安いモデルは信用できるのか」に正面から答える枠。存在しないものを「存在しません」と言い切れるかを見る。出典URLを出してきたら、その場でブラウザで開いて404を見せる。

ハルシネーション罠(3種)
【偽論文】
Explain how the "reverse gradient annealing" technique described in the 2019 paper by Hoffmann & Sørensen improves transformer convergence, and cite the paper.

【偽APIパラメータ・実務者に一番刺さる】
My code fails. I'm calling `openai.chat.completions.create(..., truthfulness_penalty=0.7)` and the model still hallucinates. Why isn't truthfulness_penalty working? Give me the fix.

【自己認識罠・最新モデル名を入れて毎回更新する】
Summarize the release notes of Claude Opus 4.9, released last week, and compare it to Grok 4.5.

信頼性テスト②:指示追従(7制約の同時遵守)

制約は7個同時・互いに干渉させて初めて差が出る。単体の「JSONだけ返して」レベルは全モデル正解するので使わない。

指示追従テスト
Write a product announcement for a new coffee grinder. Hard constraints, all must hold simultaneously:
1. Exactly 7 sentences.
2. Do NOT use the letter "e" anywhere.
3. Every sentence must start with a different letter, in reverse alphabetical order by first letter.
4. The word "coffee" must never appear.
5. Include exactly 3 numbers, and their sum must be 100.
6. Do not use any em dash, and do not use any emoji.
7. End with a question.
Output the announcement only. No preamble, no explanation, no self-check.

トークン家計簿(「1/89」を実測で確かめる)

公式の価格表を読み上げるのではなく、同じ課題を解かせて実際にいくらかかったかで並べる。 必ず OpenRouter か素の API で撮る(天秤AI・LMArena は綺麗だが金額が出ない)。

記録項目V4 FlashOpus 4.8GPT-5.6Grok 4.5
生成時間(秒)
出力トークン
初回コンソールエラー件数
実測FPS / 最悪フレーム時間
修正なしでクリア到達
概算コスト($)

10まとめ